ワケアリ
ビーチ
Tune-up Guitars
 

ワケアリ解説:ディープ・ジョイントっていいんでしょ? 06-6/25 記

 よくレスポールをチューンナップしたモデルについて、ネックはディープ・ジョイント方式ですか?って質問を受けたりします。写真では少し分かりづらいかもしれませんが、このTOKAI-LP/Stdではフロント・ピックアップのボトムがディープ・ジョイント形状に座ぐられています。しかし実際にはネックの端末はディープ・ジョイントではなく端末でカットされています。きっと上のクラスのモデルではネック端末もD・ジョイント形状になって端末が延長構造になっているのでしょう。

これはモデルのランクに合わせてピックアップ・キャビティのボトムのネック端末部分だけを全モデル共通で最上級のD・ジョイント形状で加工しておいて、モデルによってネックの方の端末形状をランク区別してネックセットを行っていたのでしょうね。

要はギブソン社の50'Sオリジナルにドンズバ仕様が高いクラスの仕様でそれ以下のモデルでは端末でカットされたネックをセットすることでの差別化を図ったと言うことですね。この様な仕様の差別化は他のコピー製品にも同様なスペック・ランク付けがありましたね。と、同時にこのD・ジョイント方式の方が端末カットされた方式よりも高いグレードであるとの認識があったからだと言えますね。

そのことがミュージシャンや一般ユーザーにも何となく定着してしまったと考えられます。また同じように他の機種やベースに於いてもネックの端末が延長されてボディと接合された方が良い、と言うことを前提に設計されている楽器が数多く見受けられます。 これをお読みの皆さんもたぶんそんな感じで認識されているのではないでしょうか?どうです?

で、実際にネック端末を延長した方が本当にサウンド面で優位なのかどうなのか?と言うのが今回の解説テーマです。まず結論から申し上げますと、設計者のディープ・ジョイント方式の意図から説明しますと、その構造の意図することは「流れ作業に於けるネック仕込み部での仕込み角度の安定精度確保の為の構造」となります。

これは多くのセットネック・ギターがネックとネックの仕込み口部分の素材がマホガニーが採用されている事が多い事にも起因しており、この部分には特定の仕込み角度設定が施されていますのでネックをボディに仕込む際に接着剤を塗り込み、クランプで接合部を圧着する際に気を付けないとネックとボディに隙間が空いた状態で固定されたり、反対にクランプの締め込み過ぎでマホ材同士が潰れて結果的に角度が変わって固定化されてしまいがちなのです。ご存じの通りメーカーの流れ作業の中では経験豊富な熟練工がネックセットを行っているとは限らないので少しでもトラブルを抑えるためにネックの端末を延長して接合面積を広げることで安心してクランプ作業が出来るようにしたものなのです。こういった専門的な手法はたぶんギブソン社でも極僅かな技術屋しか知らないノウハウだったと想像しています。大方、そんなものなんですよ。楽器を作るだけの人は理想的な設計構造を知っているとは全く限らず「なんでこういう構造になっているのだろう?」って思いながらも指示されたとおりに加工し製作してる、それが殆どの職人さんの実情レベルなんです。

別な言い方もしておきましょう。「サウンド面においてネックは短いほど良い」です。ダイナミクスの面やレスポンス、ネックの強度安定性など、全ての面においてネック自体の長さは長くなればなるほどサウンド面でも強度安定性においても不利です。12F以降のハイポジションでの演奏性を無視できるのならなるべくネックグリップを短くして指板だけをヴァイオリンなどの古典楽器のようにボディに突き出した構造でネックとボディが接合されるのが一番理想的です。ですからエレクトリック系の設計は本当の言い方をするなら無茶な設計なのが殆どなんです。あんなに長い木が保つわけが無いんですから。そこで登場したのがトラスロッドなんですからね。

また、ネックの端末をブリッジ方向に延長してボディの接合面積を増やすと、さも「木部がよく振動していいじゃないの?」って思われがちですが、実際にはネック振動をどの接合面積でボディが受け止めているかの点では広げればいい結果が出るどころか、逆効果で分離とレスポンスの悪いサウンドになってしまうんですよ。この点を分かり易く説明しましょう。

「アナタが走る時、つま先で地面を蹴って走っていませんか?」と言うことです。わざわざ1歩1歩、足の裏全体を地面に付けて走ったりしませんでしょ?そんなんじゃ遅くて走れませんよね。それと同じなんです。弦を弾いたタイミングで楽器が振動して即、音が立ち上がるべきなんです。出来の悪い楽器ほど音は遅れます。ですから、ベタ〜ッと接合面積を広げたところで音は遅れるは、間延びするは分離も悪いわではどーしようもない楽器になってしまいます。ネック自体が長い24フレット仕様の楽器の場合もその多くが生鳴りせずダイナミクスに欠ける為にアンサンブルで音が立ちにくいものが多いんです。これはネック振動とボディ振動の交差位置が延長される為にタイトさが失われレスポンスも劣化することが原因なんです。

出来る限り分かり易く説明しているつもりなんですがお解り頂けましたか?もっと細かな解説やノウハウ説明も可能ですが、まあこのくらいで充分でしょう。ではまた。(^_^)/


こ〜言うのをカスタム製作って言うのよね (^_^) 06-6/9 記

 CCRにはテレキャスターのプレスプレート・ブリッジから切り出して製作するtmpならではのプレート・ブリッジを採用しています。一番上の写真は数あるテレキャスター・ブリッジ達の同窓会みたいなショット。
全て同じに見えるテレキャスター・ブリッジですが、この4つは全て素材特性が異なっているのです。

 tmpでは同じCCRを製作するのにも完成時に与えたいサウンドにフィックスさせる為に特性の異なるプレートを随時ストックしているんです。簡単に言えば各社の使用している素材の鉄板の純鉄やニッケルなどの混合比によって同じ鉄板でも硬さが異なり、またコンマ数ミリと言ってもプレート厚が異なることから響き方にそれぞれ違いがあるんです。ですから同じフェンダー社製でも昔の製品と最近の特にローコスト製品のパーツなどは形は一緒でも素材特性が異なるために同じ音はしないのです。
例えば、一番硬質な素材で厚手のプレートは80年代にしか製作されなかったユーズドのブリッジを入手して加工していきます。これらを仮にtmp仕様として業者に特注製作(混合比、厚さ指定、サイズ型起こし)した場合、数百万の製造コストが掛かってしまうのです。

 tmpでは、と言っても「ワタクシと言う技術屋」が考えるところの「楽器のカスタム製作」とは、既存のパーツをそのまま採用するだけではなく、必要であれば存在し無いパーツはそれを自作することを当然のこととして作業に組み入れて製作することです。先日もストラトのシンクロ・トレモロの6本のスクリューも既存のサイズや形状精度では不満なので特注製作致しましたし、現在はハンバッカー・ピックアップ用のアジャスタブル・ポールピースを素材特性を指定した上で特注形状で発注しています。これらは全て最終的な楽器のクオリティを達成するために必要なエレメントを揃える作業なんです。

 写真:#−2は必要なサイズにブリッジ・プレートを切断しているショット。そして#−3の写真はそうして製作し終えたプレート(真ん中)と採用するウィルキンソン製の首振り構造のブラス・サドル、そして左は元々のプレートが切断された残りの部分です。

 CCR用のブリッジはおよそプレート長が36ミリ〜30ミリの間で設定します。この長さは同じCCRと言うモデルであっても最終的に与えたいサウンド・キャラクターを目指して、その都度異なるボディ素材の単体特性を吟味し設定キャラクターに合わせて最初に紹介した4つのブリッジ・プレートを選択し、更にボディとの接面積を30〜36ミリのどのサイズで設定するかなどを決定して都度製作しているのです。
サイズによる明らかなサウンド変化は3ミリ毎に変化しますので、30〜36ミリの間で3パターンの音質変化が得られることになりますが、実際には1ミリ単位で設定加工致しています。

 先日ブログでご紹介したtmp独自のクライオ・フラットケーブルも同じように単に配線材を選ぶ程度ではなく、その都度製作して最適かつ最良な配線材を製作者自らが生み出すことから行っています。

 今回のブリッジもオーダー下さった方の楽器素材特性を踏まえた上でプレート素材を選び、最適な接地サイズに切り出し、接地面も平面精度を高め、また加工断面にもサビ止めのコーティングを施して作り出した一品製作品なので結果的に製作する楽器に応じてブリッジに於けるサウンド特性は毎回異なっているのです。
プレートとボディトップがどのサイズ/接地面積でサウンドはどうなるのか、素材の特性がどうサウンドに影響するのか、それらの検証は20年以上前に設立した個人工房「女神工房」から始まり、今日まであらゆる試作体験をした結果がワタクシのカラダに染み込んでいます。そのカラダが判断して決定しているのです。

 ちまたにカスタムショップ製品が出回っておりますが、それらは所詮既存のパーツをマウントしているに過ぎませんが真のカスタム製作とは一品製作に限りなく近いスペック内容であるべき、とtmpではそう考えております。 でも・・作るのめんどくさいなあ〜(^o^)


ワケアリ 久々の更新です。(^_^;)>  06-6/2 記
 いや〜何でもかんでもブログで済ませていたらライブドアーのシステム・エラーでブログアップ出来なくなって困った困った。社長職はいっそのことホリエモンからドラエモンに代わって欲しかったなあ。

 てなワケで結果的に久々のワケアリ更新と相成りました。全国からもっと楽器と音楽の話を聞かせてください、と言うご要望も相変わらず多いので今日はいつもより多めに話してみます。(^o^)

 写真はチューンナップ作業中のプレシジョンの仮セットアップのショットです。
 このチューンナップはいつものプレベと大きく異なる点があります。それはネックがカスタム用のジャズベのネックをマウントしている点です。この単体は80'sのFJ製バスウッド・ボディでして、それのネック仕込み部を変更して、t.m.p製の最上級のJB用カスタム専用ネックを仕込んでいると言うワケです。

 ほんまモンのベーシストから「それって邪道でしょ〜」って言われそうですが、この際「うるさい、おだまりっ!」と一喝!うはは。なぜにこうしたかは皆さんも想像つきますでしょ?

 そーです、日本人のベーシストはプレベのネックの幅広さを苦手としてるんですね〜プレベを所有しているにも拘わらず殆どジャズベースでプレイするケースが国内では非常に多く残念に思います。そもそも、E・ギターの7割がシングルコイル・ピックアップのストラトキャスターと言う実情を考えますと、ベースで最もアンサンブルする楽器は定位の低いプレベなんですね。ジャズベースはもっとミッド寄りに定位したベースですからフルアコやセミアコ、そしてレスポールなどのハンバッカー・ピックアップのギターとのミックス時にお互いが引き立つんです。定位の低い野太い音のプレベにハンバッキング・ピックアップのギターですと互いのレンジ・コア位置がぶつかり合って音抜けしずらくなってしまいます。ツエッペリンのジミーペイジのレスポールに対してJPJのジャズベはその意味でアンサンブル上、理にかなった選択と言えます。
 デカイ音でレスポールが鳴ってる場合にプレベを指弾きしたらローに音が集まって回ってしまいます。ギタリストが早弾きしてもグシャグシャで何を弾いてるのかさっぱりわかないライブコンサートって経験ありますでしょ?そんな時はベーシストはジャズベに持ち替えるかプレベならピック弾きのブリッジ・サイドで弾いて貰わないと聴いてる方は単なる低域がグルグル回った爆音を聴かされる羽目に遭います。ワタクシ、そんなライブはメンバーには悪いけどそそくさ退散してました。(^o^)

 ちなみに、皆さんはレスポールがロックギターの定番と思い続けていらっしゃるでしょうけど、あれはソリッドギターでフルアコの音厚をハウリングせずに得るために設計されたギターですからね。それをロックギタリストがマーシャルにぶち込んで鳴らして重厚なロックサウンドを作ってしまったのです。そもそもハンバッカーと言うピックアップもジャズトーンの為の特殊な構造をしたピックアップです。あんなに特殊な設定のピックアップも珍しいんですよ、本当は。なまじ見慣れている為にレスポールという楽器がどれ程特殊な楽器であるかご存じない方が未だ非常に多いですね。レスポールの悲劇はせっかく、ジャズコンセプトで設計された楽器であるのに肝心なジャズギタリストが殆ど使用しなかった点ですね。レスポールさんご本人は典型的なレスポール・サウンドを聴かせてくれましたけどね。ロック系ではデッキー・ベッツもレスポール本来のトーンを大切にしてプレイしたギタリストと言えるでしょうね。

 また日本のバンドと海外のバンドの違いのひとつに海外のバンドマンは常にバンド・アンサンブルを意識した音作りを行っている点が挙げられます。彼らは自分だけのサウンドでなくアンサンブル中で自分はどんな楽器でどうプレイすべきかと言う判断をごく自然に行っていますね。反対に日本のロックバンドの多くは各自が自分のサウンドばかりに意識が行ってアンサンブル指向ではない傾向が強いですね。これはワタクシ自身が多くの現場で感じ続けたことです。例えばベーシストがミッドレンジをカットしないでプレイした場合、バンドサウンドは必ずウルサイ傾向になります。なぜならギターやヴォーカル、ドラムスなどのパートの主要レンジとベースのミッドレンジはモロにぶつかるからです。音楽性の豊かな名ベーシストは共通してミッドレンジをカットしてプレイしている場合が殆どです。彼らは皆自分が強いミッド音でプレイしたらバンド全体の音がぶつかりあって互いの音像が見えなくなるのを知っているからです。

 ワタクシは初めて会うベーシストの場合、アンプチューニングを必ずチェックしますね。そしてミッドをカットしていなかったり、反対に上げてるベーシストの場合はバンドが音を出す前にどんなサウンドになるか想像が付きますからそのプレイヤーの演奏には最初から期待はしません。だってベーシストがアンサンブル指向でないバンドなんて音楽性を欠いたサウンドに決まってますもん。ベースのミッドが出ているからステージ内のサウンドも全てのパート音にベース音が被って来ますからメンバーの誰もが聞こえづらくて結果的にモニター音がやたらデカクなってしまうんです。単にベースがミッドをカットするだけで済む話なのにねえ〜 その意味でアンサンブルに於けるベーシストの音作りは非常に重要なんです。そのことに気づいていないプレイヤーのなんと多いこと!(>_<)/

 話をプレベに戻しますが、先程述べました様にアンサンブルを考えますと巷の音楽を聴いていて、この曲にはジャズベじゃなくてプレベだろー、って思うものが山ほどありますね。でも日本のミュージック・シーンではジャズベがダントツの使用率です。ローエンドに伸びるハンバッカー仕様のギターに対してベーシストがジャズベースで引き締まったベースサウンドで全体をまとめるのは的を得た選択ですが、ストラトやテレキャスターをギタリストがプレイしている曲ではずっしりしたローエンドが得られるプレベがもっと活躍すべきなんですがね・・アメリカでは当たり前ですが日本ではベースと言えばジャズベが主流。今回はそこを何とか楽器サイドから何とかしたい、とまあ、こう言ったコンセプトのチューンナップです。

 勿論、ボディがプレベとは言え、ネックがジャズベースですからレンジは本来のプレベよりもミッド寄りへと少しだけ定位が変動します。でもそれが音楽的なニュアンスに於いてもいい結果をもたらします。本体鳴りは
よりタイトになった事で音像が際だち易くなり、ゆったり、ズッシリした大らかなプレベ本来のトーンをいい具合に引き締めてくれることで、本来のカントリーロック向きのプレベ・サウンドがロックからポップスまで幅広くマッチする現代的なベースへとニュアンスを変えてくれるのです。そして我々日本人には慣れ親しんだJB・グリップによりゆとりを持ってプレイ出来る楽器へと生まれ変わるワケです。

 どーです?マツシタはよ〜く考えてますでしょ? tmpには数年前に作り貯めしたジャズベースのネックがストックされてますからこの仕様のプレベは10数本は作成可能です。プレベをご希望の方は今回のスペシャル仕様は一考の価値有りかと思います。

チューンナップ作業のお話し  06-5/2 記
よくメールで「チューンナップ作業の具体的な内容を知りたいのですが、」と言ったお問い合わせを頂きますが、以前にもお話し致しましたように仮にプロのプレイヤーの方からの質問であっても専門的かつ具体的な内容については、プレイヤーがその設定についてのノウハウを知る必要は無いはずですからお答えしておりません。質問の中にはたぶんこれは同業者だろうと思われる質問も見受けられますしね。

とは言え、一部ではtmpのHPは技術者のバイブルと密かに評されているそうですので、たまにはお話ししましょうかね。

例えば「tmpのチューンナップ・ギターは元々FJ製の本体そのものを作り替えているのですか?それともボディとネックは別々のものを組み合わせることが多いのですか?」と言う質問に対してですが、大筋からまず説明を致しますと、結局チューンナップのベースとなっている楽器は工場ライン生産品ですからボディ材とネック材それぞれの固有振動数特性のマッチングで組み合わせているtmp方式とは全く異なり、あくまで生産ライン上で生産プランを元に加工製作されたボディとネックを次々に組み合わせてセットアップされているに過ぎません。

とは言え、じゃあカスタム・ビルダー達がtmpと同じようなマッチング・セレクトで組み上げているかと言えば、それも大いに疑問ですね。私の場合、ヴァイオリン製作ではトップのスプルースとバックのメイプルをある特定な音程差になるように作り上げていきます。二枚として同じ特性の木など存在しませんから、しかも材種が異なれば更に複雑な要素が成り立っていきますので、その都度一定の固有特性に成るように材を選び、削りを調整して最終的に狙った特性(それぞれを組み合わせてひとつの個体となった時に得られる特性)を目指して加工作業を進めるのを基本としています。(ちなみに、他の職人さんがどう考え、どの様に作業しているかなんて私は知りませんし、興味すらありません。なぜなら、楽器製作の基本は個人作品ですから)

エレクトリック・ギターの場合もボディがホロー構造でなくても材種や個体差が存在しますから当然、その個体だけの固有振動数が存在します。そして燻煙処理によってその値は変化しますので私の場合は1回目の燻煙処理後の個体特性で組み合わせを決定していきます。その組み合わせの基準に関してはヒミツです。(^o^)

この点はアタマで考えてもダメなんです。いくつかのボディ材とネック材に触れてタップ・チェックを行うことで体が勝手に判断します。狙った特性にマッチしていない場合(多くは材にコシが不足している場合)は再度燻煙処理してより材自体に張りを出させる場合もあります。これらすべての判断がその都度行われるのは二度と同じ物がない天然木を相手にしていることに起因しているからです。

またデタッチャブル・ネックの場合はメーカーの設定そのままでOKの場合など殆どありませんので当然の如くネック・ポケットの変更加工とネック本体の再加工が必要となります。勿論、それら変更基準はネックとボディを組み合わせた時に成り立つ構造上の張力バランス設定を得る為です。

ですから単に「このボディにこのネックを付ける」と言った単純な図式は成り立ちません。これは先程も申しましたが最終的にバランスした音質特性を「必ず得る」ためには作業者に的確な設定ノウハウと加工技術が無ければ、その作業は結果的に偶然生まれたサウンドにしか成らないからです。それだからこそ楽器は俗に言われる当たりハズレが存在してしまうのです。でも本当にノウハウと技術を習得した技術者には素材から生まれる個体差こそあれ、すべて「鳴る楽器」に作り上げる事が可能なんです。逆を言えばそれが出来ない技術者は「研究不足、経験不足、技術不足」のいずれか、と完全に言い切れるわけなんです。

多くの場合、どれ程楽器を愛している方でも一生のうちに正面から向き合える楽器の本数はせいぜい数十本でしょう。また、仮に日常的に多くの楽器に囲まれている楽器屋さんの店員さんであっても原木から設計製作までこなせる方はまず存在しない筈です。そして多くの楽器を作り、直し、チューンナップした経験者も極々限られた人間しか居ない筈です。私がよく口にする発言で「チューンナップで最良の結果を得ることは、ある種最初から楽器を作ること以上に大変な作業」と。これは実際にやった人間しか分からないでしょうね。私とてこれまでに数万本と言う楽器と関わり合い、数え切れないライブやレコーディング現場で過ごし、多くのミュージシャンとのコラボ経験があって初めて完成度の高い楽器が何たるかを掴めたに過ぎません。そうしてやっと現在、自宅の作業場でその経験を生かして作業を始めて5年が経ったばかりなのですから。
人はともすると、自分は楽器が好きだから、演奏出来るから、と言った理由だけで自分がその対象について多くのことを知っているかの如く錯覚を致しますが、実際には殆どの場合、知っていると思いこんでいるに過ぎないものです。私のような技術者に接する時はどうか見栄など張らずに、ただご自分の好きなサウンドを私に伝える努力をしてくださればいいのです。ご自分であれこれ悩むより、考えるよりも、その方が良い楽器を手に入れる確実性は遙かに高くなりますから。

ここで、楽器に関して要望を製作者に一番伝わりやすい伝え方をお教えしましょう。

まず木は何が良いとか自分で決めずに「誰々が出しているあの楽器のサウンドが自分の欲しいイメージに一番近いサウンドです」とか、「更に、あの楽器が更にこうあって欲しい」とか「ベース(目安になる楽器)に対して追加要望はこう言った部分です」とか。そしてその理由を説明下された方が設定判断がし易いんです。

多くの場合、皆さんは自分はアルダー材が希望ですとか、木目はこんなのが好きです、色は何がいい、ですとか、ご自分なりの要望はお話し下さるのですが、その要望内容を決定する根拠が希薄な場合が多いんです。

少なくと私はルックス優先でギターが欲しい方からのオーダー依頼はお断りしてしまいます。なぜなら形だけでしたらどこでも製作できるだろうからです。自分の思い入れだけを形にしたいのならその通りに形にしてくれる工房なりビルダーはどこにでもいるでしょうしね。

生意気に聞こえたらお許し頂きたいのですが、私は音楽のために楽器を製作したい職人なんです。
依頼主の要望に中に音楽が見えない場合、私は途方に暮れてしまうんです。(^_^;)
ご理解の上、お仕事をご依頼頂けるのでしたら幸いです。宜しくお願い致します。m(_ _)/。

アコースティック・チューンナップ:
GUILD-GAD-50+Fishman-HB
  06-2/8記
前回、ヤイリ製をチューン・ベースに選んだのですが、設定上から特定和音で不共振動が起きたため採用を取りやめ、新たに今回選んだのがGUILD-GAD50です。中国生産品ではありますが、スプルース単板、サイドバックもローズ単板、ローズ指板仕様でギルドらしさもしっかり受け継がれた良い作りの楽器に仕上がっております。トップ材もギルドらしく厚めで、ブライト&タイトなトーンを備え堅牢さも受け継がれた作りに安心感が漂ってます。
この楽器に施すチューン内容は燻煙処理、ネックグリップ・ファイリング、ナット&サドル加工修正とペグ交換です。元々セットされているペグがグローバー社製でしたので精度に不満が残りましたのでゴトー製に換装致しております。これでチューニングもスムースです。
しっかりした専用ハードケース付きで、Fishman-HBマウント済みタイプ:税込み¥194.250
ノーマル仕様のチューンナップ(燻煙処理、グリップファイリング、ペグ交換、その他調整)¥157.500
送料はサービス致します。
音のメリハリがありマーチンでもギブソンでも無いギルドらしい良さが光る1本です。弾き込んでいけばしっかりしたローレンジにタイトが増していくことでしょう。
次回の受付は4月からになりますのでご了承下さいませ。

K・ヤイリの JY-45B-NSチューンナップ扱い中止のお知らせ 06-2/01 記
チューンナップのベースとして採用したK・ヤイリの JY-45Bでしたが、本体設定上、特定の和音で不具合が生じることが判明しましたのでtmpでは取り扱いを急遽中止致します。これはあくまでtmp判断でありメーカー判断ではございません。お問い合わせ頂いた方にはご迷惑をお掛け致しました。
尚、FISHMAN Rare Earth Humbucking/定価:35,700円」(エンドピンジャック取り付け加工込み)の作業受付は引き続き行っておりますのでお申し込み下さいませ。


CT-LP/Ti-Std GT 06-1/14 記
◇大変お待たせしてしまっていた1本がやっと完成致しました。
 20年以上経過したモデルですから至る所に打ち傷やその他修正すべきところがありました。木部は完全剥離ではありませんが大きめの打痕は大方修正し、傷はある程度残ることは覚悟で全体をあくまで薄い塗膜になるようにカラーリングを施しました。t.m.p-Tune は傷よりも音質重視ですから、やはり作業のメインは根本的な材のコンディションを高め、鳴りの設定を最適なものに作り替える作業です。
 よくリフィニッシュ・モデルとして見かける楽器がありますが、基本的な設定が鳴る設定に作り替えられていないので見た目上がキレイになっているだけですからチューンナップとは作業結果が全く異なります。基本設定はそのままで塗膜を厚めに吹き直してバフ磨きをガンガン掛ければどんな楽器でも見た目はツルピカですが、基本的にはわざわざ鳴らないようにしているようなものです。
 ヘッドの捻れが付き物のギブソン系モデルですが、この単体はネックも太めではない為、ヘッドの捻れ修正でヘッド厚を落とすことで捻れの影響が今度はネック本体に及んでしまう事を避けて、ゴトー製のテンションアジャスタブル・オートロックペグを採用する事で左右の弦穴位置のバランスを整えることでバランスをまとめました。 ネックの指板上面角の変更は勿論、長時間燻煙処理で長年のうちに材に蓄積された湿気を抜き去り、材の繊維強度を高めてあります。元々ライト傾向のボディでしたがトリプル燻煙(16時間×3セット)で更に重量が軽くなりレスポンスは抜群です。その分ちょっと赤字収支ですが。(^_^;) 
 ひとつだけこの単体で困ったのは指板端末の左横のトグルSW方向に元々打痕による塗膜の剥がれが有りまして、どうやら前の所有者はフィンガー・○ーズと思われる指板上面の滑りを良くするスプレーを多用していたらしく塗装の剥がれた部分から下の木部に染み込み続けていたらしく、そこだけ材を乾燥させるに連れ内側からシミが浮き出てきました。塗装完了後に出てきたモノですから今更どうしようもないのですが、あの手のスプレーを使用する際はくれぐれも指板やその他の部分にはかからないように布などで覆って弦だけにしてあげてくださいね。この単体の指板も削り修正を行ったので問題はありませんが、フィンガー○ーズ系を使用しすぎた楽器は指板材がジメジメしていてフレットも簡単に抜けてしまう程です。使い過ぎはいつの間にか楽器のコンディションを劣化させ寿命を縮めますからご注意くださいね。
 レスポールの配線引き回しは非常に長く、全体では1m50センチ程にもなりますのでtmpでは特に線材には気を遣います。手作業でハイクオリティなクライオ処理をした薄銅板を折り畳んで作製したフラットケーブルと40'SのWEワイヤーの混合材で引き回し劣化を最小限に留めながらも非常に上質なトーンを備えさせています。コンデンサーも一般には知られていないハイエンド・オーディオ向けの私のお気に入りを採用しています。このコンデンサーの値段だけでもCD買えちゃいます。
 弦はアーニーの011〜048・ゲージで調整済み。「弦、太いんだなあ〜」って、お思いでしょ?ところが、ちっとも指にきつくはないんですよ。ライトウェイトの良く響くボディにこのくらいのゲージを張るとブライトでレスポンス感が心地よい楽器になるんです。ピックアップは共にtmpのクライオ/PAFF ですが、フロントはノーマル・ポールピースでリヤーはロング・ポールピース仕様にしてあります。こうするとレスポールでもセンターミックスのサウンドが生きるんです。なるべく口径の大きなスピーカーを真空管でドライブさせて弾いて頂けたらと思います。参考までに、実はギターでは6弦の開放弦のローエンドが90Hz台まで出ているのですが定番のアンプ達ではスピーカーユニットが30センチ以下の口径ユニットが採用されているものが多く、どうしても低域の再生レンジが100Hzを切れない為にローエンドの倍音は殆ど再生できていないんです。30センチのユニットでも一番低い再生レンジは110Hzがいいとこなんです。理想は15インチ/38センチのユニット1発で鳴らすのが一番音はバランスされていいですよ。なぜなら38センチクラスでは下が70〜80hzあたりまで再生できますからギター全域倍音が再生可能なんです。ツインスタイルのアンプで30センチ2発で鳴らしても全域再生は出来ませんから、ギターのローエンドの倍音は再生できないままなんです。エレアコの再生システムにもこれと同じことが言えます。音に厚みが出ないのはローエンドの倍音が出ていないから基本的に音が薄いのです。その上に音の厚みを増そうとアンプのローを持ち上げるとローエンドは出ないままミッドロー・レンジだけが持ち上がってしまうので生音に対してアンバランスなブーミーなサウンドしか得られないのです。本当はローエンドまで再生可能なシステムで再生すればベースを持ち上げなくても豊かな厚みのあるサウンドで再生出来るんですよ。単に38センチなどの大きなユニットは製造コストが高く付くのでメーカーは採用しないんです。tmpでサウンドチェックに38センチのベースアンプを使用するのも全域チェックを行うためなんですよ。ご参考までに。
 以上、このギターは元々のパーツでまだ使用できるピックガードやリヤーパネルなどはそのまま流用致しましたが、その他は全てカスタム製作用のスペックでまとめてあります。一見、単なるユーズド・レスポールですが、内容はバリバリにカスタマイズされた1本です。是非とも持ち主となられるYさんには末永く可愛がって頂きたいと思います。

予告:時期チューンナップ・ベース モデルの紹介
05-12/16 記
新しいチューンナップ・ギターは無いんですか? そんなお問い合わせに「次、これ行きます」(^o^)/
予告:#−1
FJのシンライン・モデル
やっとFJのシンラインのマホガニー・ボディを入手出来ました。メタリック・レッドのカラーリングにメイ
プル指板仕様です。塗膜は勿論このままでは厚すぎますから薄く落としてしまいます。このマホガニーはアフリカン・マホですが非常にいい単体ですので間違いなくすんばらしいシンラインに生まれ変わらせることが出来るでしょう。但し、ペグがフェンダー・ペグですから t.m.p 仕様にするには全てペグ穴を木埋めしてクル
ーソン・ピッチ穴に開け直す必要がありますから値段は少々高くなってしまいますね。
ネックのCF化/リフレット、木部燻煙処理、ペグ穴再設定、塗膜ファイリング、グリップ加工、ヘッド厚加工、ウィルキンソン・ブリッジ変更、 t.m.p TL 用クライオPUサーキットに全交換など、フル・チューンした             
このモデルの販売価格:¥236.250 送料サービス
 シンラインは人気モノなのでご希望の方はお早めにご予約下さいませ。

チューンナップ・ベース:CT-JB/VG 05-11/28 記
◇このジャズベースはあるベーシストの依頼でチューンナップ致しました。
70's フェンダー特有のヘビーなアッシュ材ボディです。まるで石みたいに重いです。実はこのヘビー・アッシュ材はあまりに個性が強いためにサウンドをまとめるのが結構大変なんです。
要はあまりにボディにウエイトがある為に通常のミッド位置にミッドが来ないんですね。どうしてもロー寄りのロー・ミッドに音のコア(核)が定位しちゃうんです。ですから解放のE弦を弾くと「ドーン」と鳴らずに「ドゥオーン」みたいな一癖あるバウンドした鳴り方をするんです。もっと分かり易く言えば、アッシュ材のある程度の質量のある材は音が「うねる」んです。また、045〜100のゲージでは弦が細すぎて材はとても鳴らし切れません。出来る限り、050〜105ゲージを張ってプレイして頂きたいですね。
そんな材特性ですが、70's-Rock サウンドにはピッタリはまったりするんですね。D・パープルやるにはみごとはまりますね。当時のギターはリッチーですからアッシュのストラト・サウンドにはリッケンのベースと同じ位アッシュ材のベースはよく絡むんです。
まあ、それはいいとして、今回はまた皆さんが「え〜っ!」と驚く話をしましょう。
それはエレクトリックベースの構造は「まったく、無茶してんなあ〜」構造だと言うことです。特に今回のジャズベースの「ブロック・インレイ&セル・バインディング仕様」でロッド調整がヘッド・アジャストのタイプのものは正にその典型モデルなんです。
まーず、ジャズベはネックが細いのはご存じかと思いますが、別な記載でも触れましたが指板トップに大きなサイズのインレイを入れますとネック強度がガクッ!と落ちてしまうんです。指板上面はネックが弦張力に必死に耐えてる部分ですからその最上面の材繊維を大きな面積で切断したらそれは当然のことです。更には指板両サイドにセル巻きを施すとその部分でも材強度は落ちます。そしてまた更に、トラスロッドのヘッド・アジャスト構造はネックに最も負荷が架かる12F〜ネック・ジョイント周辺部に素直な力が架かりづらいんです。なぜなら、ヘッドのロッド・アジャスターはヘッドの断面からペグ方向にほぼ水平に突き出ているためにロッドの仕込みカーブがフラット過ぎてしまいロッドを幾ら回してもゼロF〜7F辺りまで締めた効果が出ないので、ネックが強度不足でいつも不安定な状態に陥りやすいんです。
更に、もっとビックリさせましょうかあ?(^_^) 弦楽器の中でこんなにネック自体が長い構造なのはエレクトリック・ベースだけなんです。勿論 E・ギターだってそれは同じです。木工構造上、まったく無茶な設計であることは確かなんですよ。多くの弦楽器はネック自体は短くて指板がボディに多く進出した構造でネックの強度は保たれています。基本的にトラスロッドが在りませんからね。でもいくら鉄芯が仕込まれているとはいえ木部強度と弦の張力バランスは E・ギター系では根本的には全く保たれていない構造なんです。
そのせいで実際には強度不足以外にもとんでもないことが E・ギター&ベースには起こっているんです。
それは「カーブド・ネック状態」です。これは通常の右利き仕様の楽器で説明しますと演奏中は斜め横向きに楽器は肩から吊されて演奏されますので長過ぎるネックは下向きの1弦側にカーブしてしまうんです。長年使用されている楽器は特にその傾向が強く、経年変化でその状態は固定化されてしまうのです。特にネックが細いジャズベースには多いです。またギブソン系のギターでもマホガニー1Pネックで木取り自体が運悪く1弦側に流れる「曲がり目」の材は特にベースと同じように1弦側にカーブして垂れ下がってしまっているものが見受けられるんです。その多くがネックのナット部から端末までの本来の直線からギターで右に1〜2ミリ、
ベースの中には3ミリ近く曲がっている物も見受けられるんです。それは特にロー・ポジションのフレッティングが歪んでいる状態ですからローポジションのピッチは合うはずがない状態なんです。
ですから私の製作した楽器やチューンナップした楽器は殆ど軽量なクルーソン・タイプのペグしか使用しておりません。それは音質面から質量の低いペグで木のナチュラルな響きを失わないようにする目的と、グローバ
ー製やシャーラー製の重めのダイキャスト・ペグは長い年月の間にネックを曲げてしまう原因にもなるから採用を避けているんです。今回の写真のジャズベースは典型的な「無茶してんなー」構造のジャズベース・ネックですから当然の如く右に曲がってました。こっち向き〜(^o^)→ 今回のKさんのジャズベはCF化での指板修正/リフレットですから、まずネックの直線出し修正を行ってからフレット溝を埋めてCF溝に切り直すことで結果的に問題自体を解消しておりますし、CFネックですから従来の平行フレッティングに比べて格段にピッチは正確です。生ピアノと絡んでも非常にナチュラルな混じり方をしたサウンドピッチが得られます。
しかも燻煙処理で2,3割は強度アップして安定したネックに生まれ変わってますから最初とは別物の楽器になっているんです。更に今回は「ゴトーガット社」からクルーソン・リバースタイプのベースペグで最軽量化されたモデルが発表されたので早速採用させて頂きました。本当に軽量な上にトルク調整機能付きですから正に理想的なベースペグです。さすがは「世界のゴトー」です。
話を戻して・・じゃあ、ネックを外してCF化出来ないセットネックの楽器はどうするの?と思われた方いますか?その場合は勿論既にネックは曲がっちゃっている訳ですからネック自体は可能な限り直線出し修正をしてフレット・ファイリング時に斜めに傾いたフレットのセンター位置を意識的にズラして少しでもピッチ誤差を少なくして仕上げてあげます。ね、結構気を遣ってるでしょ?ここがベテランの職人の見識と懐の深さでございますのよ。 おほほほ〜(^_^)/ ではまた、そのうち。

誠実な人柄 (^o^)  05-11/5 記
写真は Kunio さんと言う方に売約が決まっているチューンナップ/335 Tokai 製のヘッドです。
ギブソン系のセットネックタイプは構造上、しっかりとした木取りとシーズニングを行わないとヘッドは変動しやすく、捻れているものが頻繁に見受けられます。これはトラスロッドが上締めですからロッド用のホールがネックの付け根に設定されているためにキャラメル1個分くらいしか周囲に肉が無い為、強度も弱く従ってネックヘッドも捻れを起こしやすいのです。
今回の335も多少捻れていましたので(この程度はごく普通ですよ)修正したのが2枚の写真で一枚はヘッド上面、もう一枚はヘッドの裏面です。ペグ・ロケーションも1,6弦をそれぞれ1ミリ移動させヘッド厚も理想的な厚さに変更しております。これらは全てテンションをバランスさせる為と同時にレスポンスを向上させる為です。この単体はペグの1ミリ移動とヘッド厚を0.8ミリ薄くしただけですが、これも楽器の元設定に対してその都度変更内容を判断して行ったものです。
まず、6弦側が捻れて少しめくれ上がった状態の上面の捻れを修正して、次に表がめくれ上がっていると言うことは裏側の1弦側が捻れて下がっていると言うことでもあるのでその分も削り落とし、それからネック裏面の全体厚を0.8ミリ程度薄く加工しますと、もうヘッドはボディ上面と平行関係が成立して捻れは解消。厚さがオーバー気味だったヘッドも適厚となりました。後は位置修正が必要な弦の元穴をその径に合わせて木工旋盤でダボ材を削りだし穴埋めを行い、正しい位置にペグ穴を開け直します。写真がそのダボを削り出しているところです。これらの作業によってこの楽器のヘッド部に於いてはベストバランスが確保されたということです。Kunioさん、良かったですね〜(^_^)
この後、この楽器は燻煙処理に移行してこの状態で木部から余分な水分を抜き去り、木のセルロースの結晶化をいっきに加速させ結果的に通常十年以上は掛かる木部の安定状態を与えてしまうのです。もうこの時点で元の鳴りとは別格レベルです。
この様な木部の修正変更はわざわざ行わなくて皆さんを騙すつもりなら手を加えず出荷することも可能です。
現にどこのメーカーの物でも大なり小なりベスト設定とは言い難い物がゴロゴロしてます。別に音が出ないわけではありませんし、殆どの方はそんなところが原因で自分のギターが「音抜けしない」とか「音が死んでいる」ですとか「バランスが悪い」ですとか、それらの原因のひとつがそこにあるなんて思ってませんからね。
あの有名なBBキングの「ルシール」だってかなりヘッドは捻れちゃってます。あれじゃ気の毒なんですが捻れが大きい物を修正するとヘッドが薄く成り過ぎてしまうので残念ながら出来ないのです。
そのような巷に溢れた一見気が付かない問題点、通常では問題点扱いされない問題点を購入者が分からなくても私は出来る限り手を加えてベスト設定に持ち込んでいます。ちなみにここに示したヘッドの捻れ修正加工とペグロケーション変更加工&再塗装の工賃だけでも通常は3万以上は掛かります。普通でしたら1ミリ位置がズレてるとか、ヘッドが少し捻れてることで3万円の修正費用を支払って修正しますか?たぶん気が付かないし分かっても修正しないのではないでしょうか?リペアーショップのクラフツマンも「この程度は気にする必要ないですよ、影響ないですよ」と、たぶん言うでしょうね。でもそれはベストな鳴りをその時点で諦めた事となります。そーですね〜その状態を車で表すなら「ハンドルの遊びが大きい状態」に例えることが出来ますね。「常に車がフラフラしている」そんな感じの状態です。
多くの楽器がこんな設定で鳴るわけがない、バランスするわけがない、音抜けするわけがない、と言った問題点を抱えたままで使用され、プロのクラフツマンでも鳴らない楽器の要因を的確に判断できない方が殆どだと思われます。tmpでは目の前にお客様が居なくても修正が必要なら修正加工を施してお渡ししています。
そうなんです、誠実な人柄なんです、わたくしは! おほほほー(^o^)/

CT-ST/BW-VG  05-10/30 記
◇久しぶりのワケアリ更新です。ブログでの解説ですと物足りない方もいらっしゃるようなのですが、ひとつだけ私が意図的に解説に関して詳細具合を設けてお話ししている事実についてお話しておきますね。
それは、詳しい設定内容やチューンナップの詳細変更部の解説には二つの意味合いから「話すのはここまで」と、決めてお話ししていると言うことです。それは経験上そう判断しているからです。ひとつは、一般の方にとっていかに興味深い内容であっても詳しい解説は私の楽器作りのノウハウですから肝心な部分ほど詳細は明かせないと言うのが、まずひとつ。もうひとつは、例えば写真のストラトは共に80'sのボディとネックをバランスさせてビルドアップさせたものですが、今から20年以上も経過した量産品はあくまで製品レベルでよしとして生産されたものですから経年変化で材はソリやネジレ、波打ちがごく普通に起こっているのです。しかもその度合いは単体毎に全て異なりますので、毎回修正度合いや手間暇も異なっています。そして物によっては最初から作り直した方がよっぽど楽だわ!って思うほど修正が多岐に渡って行われる物も珍しくはないんです。そんな作業内容を一般の方に詳しく書けば書くほど「そんなに修正が必要なほど元はダメなものだったのか?」と思われてしまうからです。「だったら最初から作って貰った方がいいからこの手持ちの楽器のチューンは諦めよう」と判断される方も出てきます。
でも肝心なのは最終的に現状からどこまでのレベルの楽器に仕立て直せるかは熟練した技術屋にしか判断できないと言うことなんです。詳しい作業解説をしたが為に最終的に素晴らしい鳴りの楽器に生まれ変わっているのに「う〜ん、元はかなりひどかったんだよな〜・・」と言う過去の状態を気にされて、その楽器に愛情を持てない方が現実にいらっしゃるんです。勿論、そんな方は現状で気に入っている楽器があったにせよ、その状態がどのレベルの物かはあくまで素人判断でいいと思っているに過ぎず、ある種根拠のない満足感で所有していることが殆どです。このHP上で何度も申し上げましたが、エレクトリックギターやベースの普及品は「楽器」と称しながらも一般の工場作業員のおじさん、おばさんが作れるレベルの内容のものなんです。
あらためて申しますが、本当に厳選材をしっかりシーズニングし、丁寧に手加工され、研究され尽くした理想的な設定と仕上げが施された楽器が「20万以下/平均的労働者一ヶ月分の給与以下」で作製できることなどはま〜ずあり得ません。主に先進国以外の生産品でしたら価格的にはあり得ますが、本当に心を込めクオリテ
ィを求めて製作したいのであれば、生産地を労働賃金や材コストの安い地域に限る必要はないんですから。
そんな訳でして、実際に詳細なるリポートを1本1本に記しても「知りたがり屋さん」が記事として読んで面白いと感じることはあっても実際には「このギターって、元はネックねじれてたんだよな」「かなり手を加えて漸くまともになったんだよな」と、ネガティブ・イメージに成りかねないからこそ、単体毎の必要以上な詳細リポートは不要であり、最終的にチューンされた物が素晴らしい楽器になっていれば、その部分にこそ光が当たれば良いのですから、ほどほどの解説、それが丁度いい、と思っております。
 写真のストラトは完成後、東京大田区在住の方にお送りするものです。なるべく価格を抑えながらも出来る限りのポイントを適切に加工設定し直されております。作業した私の気持ちはいつも同じです。
「仮に、オリジナルのF社オールド・ストラトと並び弾き比べられても持ち主に恥をかかせるような楽器には意地でもさせない」オールドしか目に入らないヴィンテージ・ギターフリークとて、一旦同じ環境で弾き比べたら「・・・・」ある種、絶句させてしまうギターに仕立ててあげたい。ただそれだけです。
 勿論、最初から手作りしたカスタム・モデルであれば更にそれを上回る楽器に仕上げることは当然のことだと考えております。
大田区のKさん、ご覧のストラトはもうすぐご自宅にお届けできます。ご予算内でクラプトンのブラッキーと弾き比べても遜色ないギターに仕上げました。お待ち下さったことに感謝します。m(_ _)/

News!  05-9/20 記
実力派ギターリスト& t.m.p ユーザーのお一人、梶原 順さんのオフィシャル・ウェブサイトがオープンしたそうです。t.m.p の楽器達も紹介されていますのでアクセスしてみてくださいませ。
Sep 17, 2005 Jun Kajiwara Official Website       http://www.4creator.com/JunKajiwara/
◇一言!:今回のアンケートで私自身、CF(サークル・フレッティング)に関して説明不足な点として認識した事があります。CFのメリットに関してです。多くの方がCF仕様にした場合、ピッチの狂いが無くなる点だけがCFのメリットと考えておられる様子でしたが、実際にはCF化により統一されたスケール設定が楽器に施される結果となりますので、通常のフレッティング仕様で起こっていた各弦相互の不協振動で打ち消し有っていた木部振動が一定の倍音振動に変化する為に音の分離やサスティーンも弦振動に忠実な形に生まれ変わるのです。
例えて言うのなら、何名かで構成されたコーラスのお姉さん達の発する3度5度と言ったハーモニーはひとつのまとまった和音として響きますから聴いていても心地よくその声もよく通りますが、それが微妙にピッチズレを起こして不協和音化した場合、音はにごり、音像がボヤけていきなり力を失ってしまいます。
従来のフレッティングではそれと同様のことが楽器本体に起こっているのです。各弦の振動は木部震度に変換され、その振動が再び弦にと還っていくという振動循環がロスの少ない形で行われることが弦楽器には非常に重要なのですが従来のフレッティング仕様の弦楽器は弦振動が互いにぶつかり殺し合う為に楽器本体にも同じ事が起こっているのです。そこも大きなウィークポイントだったのです。
CF仕様化することによって共通のスケール設定が与えられたその結果、CF仕様の楽器はアンサンブル中でも他の楽器とのハーモニー構成に優れた特性を備えた上に明確な存在感あるサウンドを与えられるのです。
注)但し、CF仕様と申しましても楽器自体の設定の善し悪しで、そのメリットは生きもし殺されもしますので、メーカー製品レベルのままでプレイされている方には t.m.p Tune をお奨め致します。木部がフルに鳴り響く設定をされた場合の音のダイナミクスの差は誰の耳にも歴然としています。<(_ _)/
◆私がCFを考案して以来、ずっと望み続けているのは全てのフレッテッドの弦楽器達が自ら備えた本当の響きを得ることです。ですからCFは私に取りましては個人的にどう思う、こう思う、好む好まないなど、個人レベルでその是非を問うものでなく、もっと音楽全体に影響する重要なファクターとしての価値なのです。
その点を今回は説明補足とさせて頂きます。